羽島ボーカルアカデミー ボイストレーニング
2、1日の練習時間は?
よく「1日8時間歌わないと調子がでない」とか「レコーディングして5時間目くらいから調子が出てくる」と言うボーカリストたちの話を聞くことがあります。
どうして、長く声を出さないと調子が出ないのでしょうか。
それは、こうしたボーカリストたちには、声帯筋が硬くなってしまっているからです。
声帯筋は筋肉なので、硬い声帯筋、柔らかい声帯筋があります。
硬い声帯筋は怪我をしやすい、ポリープなどを作りやすい状態になっています。
それに対して柔らかい声帯筋は怪我が少なく、長い時間、快適に歌うことに対応できる状態になっています。
オリンピックのアスリートたちの筋肉を、実際触らせてもらうと驚きます。
力を抜いているときは驚くほどポニョポニョで柔らかいのです。
ところが力を入れるとギュッと硬くなり、ハンマーで叩いてもこわれないような強さがある。
彼らは筋肉を柔らかく作っており、必要なときに必要なだけ力を出せるようなトレーニングをしています。
ボーカリストはどうでしょう。
長い時間歌い、高い音を出そうとして筋肉を固めるだけ固める。
歌っている間も後も、ずっと緊張状態。
それでは声帯筋が消耗し、劣化していくのは当然のことです。
こうした弊害をなくすため、1日の歌う時間を意図的に短くする必要があります。
「え?」と思わないでください。
そうやってボーカリストの先輩たちの中には、喉を壊してしまった方が多数いるからです。
プロボーカリストのほとんどが、少なからず何かしら喉のトラブルを抱えているのは、周知の事実です。
職業病ともいえるでしょう。
ならば、使い方を再考して、喉のトラブルを避ける知識を身につける必要があります。
都内でプロボーカリストが通院する耳鼻咽喉科の医者に、理想的な練習時間を相談したことがあります。
「1日3時間までですね」とおっしゃいました。
「それ以上歌うと声帯筋が硬化し、血流が集まりすぎてしまうため、練習過剰ということになります」と。
実際、レコーディングで3時間以上歌ったボーカリストたちは、「調子が出てきた」と言いますが、レコーディングをしていた時期の私にとっては、「ノイズが出てくる」「息が多く漏れる」など、弊害がはじまるタイミングになります。
歌う側と、レコーディングした音質を聴く側の判断は違っているのです。
もうひとつ大切なこと。
それはプロボーカリストの方々は、週1日、歌わない日を作りましょう。
歌わない日を作ることで、声帯筋が緊張から外れます。
この緊張を外してあげるという作業が、喉にとってはとても大切なのです。
週1日の休みを取るだけで、健康な声帯を維持しやすくなります。
喉は休んでいる期間、声帯を構成するグリコーゲンなどの油分を得ることにより、よりしなやかになるのです。
喉を休ませることが、トレーニングの成果を出すことになることも知っておきましょう。